コンパスの選び方|プレートとサムを比較、独自スイッチコンパスを開発したアドベンチャーレーサーが解説

コンパスの選び方|プレートとサムを比較、独自スイッチコンパスを開発したアドベンチャーレーサーが解説

公開日:2026年4月17日|著者:中田 博喜(KATANA Adventure Ltd. 代表)

コンパス選びは、結局のところ「自分がどう使うか」で決まる。山頂で立ち止まって地図を広げるなら、それに合うコンパスがある。走りながら片手で方位を確認したいなら、別物を選ぶことになる。1時間で終わるオリエンか、2日間ぶっ通しのレースかで、また話が変わる。

だから、どれが一番いいかは聞かれても答えられない。

この記事ではコンパスの主な種類と、私自身がアドベンチャーレースで9年間使ってきた中で見えてきたことを書いた。オリエンテーリング出身ではないので、その世界の細かい話は他の人に譲る。アドベンチャーレースそのものについては「アドベンチャーレース完全ガイド」に書いた。

KATANA Adventure スイッチコンパス。サムコンパスとリストコンパスをワンタッチで切り替えられる独自設計

📸 KATANA Adventure スイッチコンパス — KanPasのエリート向け純正コンパスと組み合わせて使う設計

Chapter 01

コンパスの種類と基本構造

ナビゲーションスポーツで使うコンパスは、ざっくり3つに分けられる。針が北を指す原理は同じだが、形と使い方は別物だ。

📐

プレートコンパス

透明なアクリルプレートに磁針が乗っている定番タイプ。地図の上に置いて使う。登山用品店に行けば必ず置いてある。

👍

サムコンパス

親指に装着するタイプ。地図と一緒に握ったまま走れる。オリエンテーリングやARでよく使われる。

リストコンパス

手の甲側に固定するタイプ。両手がふさがっていても見られる。MTBやパドリングと相性がいい。

この記事でいう「競技」とは

この記事で「競技」と書いたら、オリエンテーリング・OMM・アドベンチャーレースのことだと思ってほしい。どれもGPSは使わず、紙の地形図とコンパスだけでナビゲーションする。

▶ 次は —— いちばん普及しているプレートコンパスから整理する。


Chapter 02

プレートコンパス:精密測定の定番

登山用品店で「コンパスください」と言って出てくるのは、たいていプレートコンパスだ。スウェーデンのSilva、フィンランドのSuuntoあたりが有名どころ。透明なプレートの中央に磁針入りのハウジングがあって、地図に重ねて方位を測る、という使い方になる。

プレートコンパスの強み

精密性 プレートが大きい分、コンパス直進(コンパスの直線部を目標方向に合わせ、そのまま一直線に進む技法)の精度が出しやすい。スケールルーラーは1mm単位で、距離計算もしやすい。精密さで言えばプレートコンパスに分がある。
汎用性 登山もトレッキングも競技も、ひと通り使える。基本操作を覚えるための教材としても優秀。
入手性 どこのアウトドアショップでも手に入る。エントリーモデルからガチな高精度モデルまで、価格帯の選択肢も豊富。

ARでプレートコンパスを使わなくなった理由

アドベンチャーレースは長い。MTBに乗っているときも、パドリングしているときも、ナビゲーションは止まらない。コンパスを使う時間がとにかく多い。補給食を食べながら、藪をかき分けながら、自転車を漕ぎながら —— その都度プレートコンパスを取り出す動作が、私には正直しんどかった。とはいえ、プレートで戦っているトップオリエンティアもARレーサーもいる。要は慣れだし、合う人には合う道具だ。

▶ 次は —— ARで私が使うようになった、サムコンパスの話。


Chapter 03

サムコンパス:地図と一体で走る

サムコンパスは、地図を持っている手の親指に装着する。親指と人差し指で地図を挟んで持つと、地図とコンパスが同じ視野に入る。走りながら片手で地図と方位を一緒に見られる。これがオリエンテーリングから広まったスタイルだ。

使い方のイメージ:3つのポイント

① 装着 地図を持つほうの手の親指にゴムリングを通す。コンパスのハウジングが親指の腹側に来るように向きを合わせる。
② 持つ 地図を親指と人差し指で挟み、現在地に親指の先端を当てる(「サムポインティング」と呼ぶ)。地図を畳みながら親指で現在地を追い続ければ、止まらずに「今どこ」を把握できる。これがサムコンパス最大の利点だ。
③ 読む 磁針の赤い端が北。地図を磁北に合わせて、目標の方向を確認する。方位の読み取り自体はできるが、コンパスの直線部が短いぶん、長距離のコンパス直進では誤差が出やすい。スケールルーラーも5mm単位が普通で、プレートコンパスのような精密さはない。感覚で方向をつかんで走る、というのに向いている。

▶ 次は —— 2つを並べて比較表で整理する。


Chapter 04

プレートとサムの違い:比較表

2つを並べて整理した。私の主観も入っているので、あくまで傾向として見てほしい。

プレートコンパス(左)とサムコンパス(右)の実物比較。形状・サイズ・装着方法の違いがひと目でわかる

📸 プレートコンパス(左)とサムコンパス(右)— 形と使い方の違い

比較項目 📐 プレートコンパス 👍 サムコンパス
持ち方 手に持つ(地図とは別) 親指に装着(地図と一体)
走りながらの使用 △ やや煩わしい ○ やりやすい
方位確認の精密さ ○ プレートのエッジ直線部が長く正確に確認可能 △ 直線部分が短く精密さに欠ける
距離測定の精密さ ○ 1mm単位ルーラーで高精度 △ 5mm単位・感覚的な確認向き
現在地トラッキング △ 止まって確認 ○ 親指で常時指示
登山・ハイキング ○ 向いている △ 使用頻度少なければ不向き
オリエンテーリング △ 使う人もいる ○ 使う人が多い
アドベンチャーレース △ 煩わしい場面あり ○ 私はこちらを使用
価格帯(目安) 2,000〜12,000円 4,000〜18,000円

▶ 次は —— あまり語られない「針の構造」の話。


Chapter 05

コンパスの「針の構造」が走りに影響する理由

コンパスを買うとき、見た目とか価格に目がいくのはわかる。でも私が一番気にするのは、針の速さと安定性だ。これを左右しているのは、針そのものの構造にある。

針には大きく2種類の構造がある

一般的な針 金属に磁気を帯びさせた針。安いコンパスはたいていこっち。磁力が落ちやすく、揺れたあとに針が止まるまで時間がかかることがある。
高性能な針 磁石そのものが針になっている。磁力が強くて、揺れたあとに針がすぐ落ち着く。競技向けコンパスはこの構造が多い。

机の上で確認するなら、この差はそんなに気にならないかもしれない。でも走っているときは別だ。手は上下に揺れる。針が落ち着くまでのコンマ何秒の差が、読み取りやすさをまるごと変える。針がブレ続けるストレスは、長いレースでじわじわ効いてくる。

📹 針の動き比較動画(近日公開)

安いコンパスとKanPasエリート向けモデルの針の動きを、同じ条件で比較した動画を準備中。KATANA AdventureのInstagramとYouTubeで公開予定。

KanPasについて

KATANA Adventureが扱っている「KanPas」は、中国発のコンパスブランドだ。日本ではメジャーじゃないが、コンパス関連の商品ラインナップが幅広く、価格も性能もピンキリ。オリエンテーリング・エリート競技者向けのモデルは針の速さと安定性に振った設計になっていて、スイッチコンパスはこのエリート向け純正コンパス(MA-46-FS)と組み合わせる構成にしている。SilvaやSuuntoのハイエンドと比べても針の動きで遜色がなく、価格は手が届きやすい。これがありがたい。コンパスは藪や泥で傷がついたり、転倒で壊れたり、いずれ買い替えるものだから。

ちなみにKanPasはOEM生産も手がけている。OEMまで含めると、実際のシェアは思ったより高いんじゃないかと思う。実は今、私たちもこのKanPasに金型製作とOEM生産をお願いしていて、「KanPas × KATANA Adventure」のダブルネーム版スイッチコンパスを2026年5月末に発売予定だ。スケールルーラーは1mm単位に変更する。

KanPasコンパスを見る →

▶ 次は —— 「左手用か右手用か」の実測データを出す。


Chapter 06

左手用・右手用、どちらを選ぶ?【実測データあり】

サムコンパスを買うときによく聞かれるのが「左手用と右手用、どっち?」という質問だ。「右利きは左、左利きは右」が定説だが、実測データがあるので紹介する。

【実測】サムコンパスの左右比率

データソース 右手用の比率
世界市場(KanPas代表談) 9〜15%
当ショップ実測値(n=247) 5.7%
一般的な左利きの比率(参考) 約10%

うちの右手用比率5.7%は、一般的な左利きの比率(約10%)よりも低い。つまり右利きの大多数だけでなく、左利きの一部もあえて左手用を選んでいる、ということになる。

特にこだわりがないなら、右利きは左手用でいい。データもそう言っている。

ちなみに私は左利きで、右手につけている。手の感覚は本当に人それぞれなので、最終的には自分でしっくりくる方を選んでほしい。

▶ 次は —— スイッチコンパスを作ることになった話。


Chapter 07

スイッチコンパスが生まれた背景

KATANA Adventure スイッチコンパス。サムとリストをワンタッチで切り替えられる独自設計

「ずっと気にしている」という不快感

サムコンパスを長く使っていると、あることが気になり始める。

地図を見ながら走っているうちは、コンパスも一緒に手の中にある。問題は、地図から手を離す瞬間だ。アドベンチャーレースは長い。やることも多い。補給食を食べる。藪をかき分ける。沢を渡る、雉を打つ。

🏔️ 登山・野外用語豆知識:「雉を打つ」は男性が、「お花を摘む」は女性が、それぞれ野外で用を足すことを指す隠語。山岳・冒険系コミュニティでは普通に使われる言葉だ。

そういう場面では、どうしても掌が緩む瞬間が来る。意識がコンパスから離れるたびに、「コンパス、大丈夫か」と頭の片隅でずっと気になっている。実際、何度もサムコンパスを落としたし、誰かが落としたのを拾ったこともある。冬、手袋の上から装着するときなんかは、もういつ落とすか分からない。親指からスポッと抜けても、たぶん気づかない。不安になってゴムバンドをきつく締めると、今度は親指の先に血が通わなくなる。シカゴのマイナス20度のオリエンテーリングのときは、久々にプレートコンパスを引っ張り出した。

この「ずっと気にしている」状態が、長いレースだとボディブローみたいに効いてくる。

サムとリストを「切り替える」という構造

スイッチコンパスの発想自体はシンプルだ。走って地図を読むときはサムコンパス。コンパスを意識したくないときは、手の甲側にスライドさせてリストコンパスに切り替える。ゴム紐が手首と親指に絡みつく構造なので、ふとした瞬間に落とす不安がない。これだけで全然違う。

言葉にするとシンプルだが、調べた限り、この構造のコンパスは世界のどこを探しても見当たらなかった。サムでもリストでもなく、その間を行ったり来たりできる。アドベンチャーレーサー×ガレージブランドとして、サムコンパスをアドベンチャーレース向けに進化させることができた。自分でも気に入っている。

サムモード 普通のサムコンパスとして機能する。手首と親指に絡んだゴム紐のおかげで、親指の根元にぴったり吸い付く。フィット感は通常のサムコンパスより上。厚手の手袋の上でもへっちゃらだ。
リストモード 手の甲側にスライドした状態。藪漕ぎや補給中はコンパスを意識しなくて済むが、見たいときはいつでも見られる。MTBに乗っていても、パドリング中でも、動きを止めずに方位が確認できる。

📹 サムモード ⇄ リストモード ワンタッチ切り替え

3Dプリンターで磨き、金型で量産する

これを最初から金型成形で作ろうとすると、初期費用がかさむうえに、設計を1mm変えるだけで数か月とまとまったコストが飛ぶ。Bambu Lab X1-Carbonなら、レースやトレーニングで気づいたことをその日のうちに試せる。エンジニアとして16年、「設計→試作→検証」をひたすら回してきた身からすると、このスピード感は他では替えがきかない。素材はPLA・ABS・ASAをパーツの用途で使い分けて、強度・柔軟性・耐候性を最適化している。ついでに、3Dプリントだからこその名入れサービスもやっている。

スイッチコンパスは数十回の改良を経て、ようやく今の形にたどり着いた。そして2026年、ここまでの試行錯誤を踏まえてKanPasに金型製作とOEM生産を依頼することにした。「KanPas × KATANA Adventure」のダブルネーム版が5月末に発売予定だ。3Dプリンターで散々悩み抜いたからこそ、自信を持って金型に渡せる形になった。スケールルーラーも、5mm単位から1mm単位に進化させる予定だ。

Bambu Lab X1-Carbonで試作したスイッチコンパスのパーツ群

数十バージョンを経てたどり着いた現在のスイッチコンパス。

"ロゲイニングの帝王"も使ってくれている

スイッチコンパスはアドベンチャーレース仕様で作ったが、競技時間の長いロゲイニングやOMMにもおすすめできる。実際、OMMストレートエリート連覇の実績があり"ロゲイニングの帝王"と呼ばれる柳下大さんも使ってくれている。

ロゲイニングの帝王・柳下大さんによるスイッチコンパス★★★★★レビュー(KATANA Adventure Shopifyストア)

📸 柳下大さんによる★★★★★レビュー(KATANA Adventure Shopifyストアより)

📊 当ショップでの売上比率

これまでの販売実績で、スイッチコンパス 76% : 通常サムコンパス 24%。比率にして約3倍。名入れの効果もあるが、それでもこの差。私が推しているのはもちろん、実際に選ばれているのもスイッチコンパスの方だ。

スイッチコンパスの商品ページを見る →

▶ 最後に —— 用途別の選び方をまとめておく。


Chapter 08

用途別・コンパス選びの参考に

ここまでの話を踏まえて、用途別にまとめておく。

登山・ハイキング

→ プレートコンパス

立ち止まって確認できれば十分なので、これで足りる。SilvaやSuuntoのミドルクラスが扱いやすい。

オリエンテーリング・OMM

→ サムコンパス、または競技時間が長いならスイッチコンパス

使う人が多いのはサムコンパス。プレートで戦っているレーサーも普通にいるので、自分に合うほうで。針の安定性にはこだわっておきたい。ロゲイニングやOMMのように長時間にわたる競技なら、スイッチコンパスも選択肢に入る。

アドベンチャーレース

→ スイッチコンパス + KanPas純正エリートコンパス(私の選択)

多種目・長時間のレースだと、これが私の最良の選択だ。

迷ったら

→ 後悔しない決断を

安い買い物じゃない。だけど、貴重な週末にナビゲーションを全力で楽しむための投資だ。納得のいくコンパスを使ってほしい。迷ったら問い合わせや公式LINEからどうぞ。

❓ よくある質問

Q. 最初はどちらのコンパスから入ればいいですか?

登山やハイキングがメインなら、プレートコンパスから入るのが自然。競技を始めたい人は、最初からサムコンパスに慣れる人もいれば、プレートから入る人もいる。どちらでも問題ない。

Q. 右利きは左手用・右手用どちらを選べばいいですか?

特にこだわりがないなら左手用でいい。うちの販売実績(n=247)でも、右手用を選ぶ人は5.7%しかいない。

Q. スイッチコンパスはオリエンテーリングにも使えますか?

使える。サムモードでそのままサムコンパスとして機能する。KanPasのエリート向けモデル(MA-46-FS)を使っているので、針の速さと安定は心配いらない。開発のきっかけはARでの長時間使用だが、親指根元のフィット感がいいので、オリエンでも安心して使える。

著者:中田 博喜(KATANA Adventure Ltd. 代表)
埼玉大学機械工学科卒業後、建設機械メーカーにてエンジニアとして16年間勤務(米国イリノイ州に3年駐在)。2023年に帰国、2024年に独立しKATANA Adventure Ltd.を創業。チーム「ふきのとう / KATANA Adventure」として国内外のアドベンチャーレースに参戦。ニセコエクスペディション2連覇(2024・2025)。2026年はA1ワールドカップファイナル(マレーシア・ランカウイ)に挑戦予定。

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KanPasコンパスもスイッチコンパスもKATANA Adventureショップで取り扱い中。
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